フォトニックナノ構造について
フォトニック結晶
フォトニック結晶とは、屈折率が光の波長のオーダーで周期的に変調された構造のことを指し、最先端の加工技術を用いることによって人工的に実現することができます。 自然界の通常の結晶においては、原子配列によって電子の波動関数が周期的摂動を受けて、エネルギーバンド構造が生じますが、 それと同じ原理で、フォトニック結晶中では光の分散にフォトニックバンド構造が生じ、 その結果として自然界の物質では光絶縁体に代表される実現できないさまざまな新しい光物性が発現します。
当研究チームで研究してきたフォトニック結晶の特異な物性の例
・負の屈折現象
屈折率がマイナスの材料として振る舞い、特異なレンズを実現
・スローライト
光の伝播速度を自在に制御。光速を5万分の1に減速
・ナノ共振器による強い光閉じ込め
波長オーダーの体積に強く光を閉じ込める
・断熱的波長変換
ギターのチューニングのように光の波長を変える
・超小型・超消費エネルギー光デバイス
プロセッサチップの中に光ネットワークを導入
プラズモニクスとメタマテリアル
フォトニック結晶は誘電体のナノ構造の例でしたが、金属のナノ構造をうまく設計して金属の自由電子プラズモンの性質を利用することによって、 光の波長の10-100分の1の領域に光を閉じ込めることが可能になります。この分野はプラズモニクスと呼ばれています。 また、波長よりはるかに小さな金属ナノ構造のコンデンサ的な応答、インダクタ的な応答を利用して、通常の物質では不可能な電磁応答を創出することが可能で、 このような人工媒質はメタマテリアルと呼ばれています。当研究チームでは、このような金属ナノ構造の研究もフォトニック結晶と並行して進めています。
ナノマテリアルとナノフォトニクスの融合
近年、グラフェン、遷移金属カルコゲナイト(TMDC)、カーボンナノチューブ(CNT)、ナノワイヤのようなナノメートルオーダーのサイズで特異な物性を持つ材料が次々と開発されています。
これらの物質は低次元構造に起因する様々な新奇な光物性を持つことがわかっていますが、物質のサイズが光の波長よりもはるかに小さいために、光との相互作用が限られています。
そこで、本研究室では、光を強く閉じ込めるナノフォトニクス構造とナノマテリアルと組み合わせて、ナノマテリアルと光の相互作用を飛躍的に増強する新しい光プラットフォームを構築し、
そこで発現する光現象の探索を狙った研究を行っています(科研費基盤S「ナノマテリアル・ナノフォトニクス融合による新しい光集積技術の創製 」(H28-H32))。
物性物理学とナノフォトニクスの融合
フォトニック結晶とは固体物理においてよく知られていたバンド理論を光学に適用したものですが、最近、さらに新しい物性物理の概念をナノフォトニクスに適用しようとする研究が活発になっています。
その一例は、2016年のノーベル賞の対象にもなったトポロジカル絶縁体です。
これは固体中の電子のエネルギーバンド構造が、あるトポロジカルな特徴を持つことによって生じる新しい電子物性ですが、この概念を光の世界に持ち込む研究が注目を集めつつあります。
特殊な幾何学的構造を持つフォトニック結晶を設計し、トポロジカルな性質を持たせることにより、通常の物質では不可能な光物性が実現できる可能性が議論されており、現在ホットな研究が活発化しつつある分野です。
また、MoS2等の2次元物質などで電子のValley自由度を一種のスピンのように利用しようとするValleytronicsの研究が活発化していますが、これを光の世界に適用するという研究も注目を集めつつあります。
また、近年、非エルミートな系が空間ParityとTimeの同時反転に対して対称性を持つ場合に、実固有値を持つ相が現われ、その相転移境界付近で様々な興味深い現象が発現することが注目されています。 この系はParity-Time(PT)対称系として活発な研究対象になっていますが、これを利得と吸収を持つ光の人工構造で実現できる(PT対称光学系)ことが最近提案されています。 PT対称光学系は、光の非相反現象、超光速伝搬などの興味深い現象が予測されています。
当研究室では、フォトニック結晶技術を活用して、これらの新しい光学系を実現し、その特性を解明することをめざした研究を行っています。
光による演算をめざして
光コンピューティングは1980年代から1990年代にかけて活発に研究されましたが、急激に進展したCMOSプロセッサに対して優位性を見いだせず研究は一旦衰退しました。 最近、我々はナノフォトニクス技術を用いることによって、光による演算がCMOS演算回路を凌駕できる可能性を見出し、光コンピューティングをめざした基礎研究を行っています (本研究はJST-CRESTの助成を受けて主にNTT研究所で行っているものですが、東工大研究室とも連携しています)。